山下達郎のサンデー・ソングブック(2014年1月26日放送)

今までですね、まあ、色々なお便りを頂いてるんですけども、何度か演奏メンバーを替えてまいりました。
その度にですね、先週もちょっと申し上げましたが、スタッフには反対されましたし、以前の方がよかったという保守的なお客様が大勢いらっしゃいました。
現在ではですね、押しも押されもせぬトップドラマーであります青山純という人ですら、彼は私が起用した当初はですね、スタッフや聴衆から、なぜそんな無名なミュージシャンを使うの、と反対されたり抗議されたりもしました。
お客さんの中には文句を言ってですね、それ以来来なくなるという方もいらっしゃいました。
同じようなことがもう何度か繰り返されて現在にいたっております。
今もそうした情勢はあまり変わりありません。
ボブ・ディランの「No Direction Home」という映画を見るまでもなくですね、芸事に対してのお客さんの保守性というものが大昔から存在しました。
それはまあ芸事というのは、観る側にとってはですね、自分の歴史の投影、まあ自分史ですね、自分史の投影、自分史の対象化、そうした結果であります。
歌舞伎とか伝統芸能、落語なんかの世界ですとですね、必ず、先代はよかった、お前の芸なんて先代に比べれば、というそういう、昔はよかった、とかですね、まさにそうした自分史の反映としての芸事の評価というのが昔からございます。
ですが、古い世代というのは新しい世代に対する寛容さというのを常に持っていなければならないと僕は常に考えております。
若い世代がですね、いつの時代も続々と生まれてきます。
我々古い世代はそれらの若い新しい才能を見出して、抜擢し、助けて、日の当たる場所へ引っ張りだしてあげなければいけません。
然るに、多くの業界人、それから耳の肥えた聴衆とかお客さんですらもですね、自分に馴染みのある、自分たちにとっての、すなわち自分史の反映としてのですね、一流、有名ミュージシャン、そうしたブランドを金科玉条と崇めまして、昔はよかった、俺たちの時代はよかった、それに引き換え今の若い者は、としばしばそういうことを口にします。
私のライブに関しましても、ここ十年間青山くんがいませんので、んな青山純がいないライブなんて、という方がですね、少なからずおられること、私がよく承知しております。
別にそういう方々にですね、再び来ていただこうとは思いませんが、ただひとつはっきりさせておかなければならないことは、今まで私は手伝ってもらったドラマー、上原裕、村上秀一、そして青山純、そして現在のパートナーであります小笠原拓海という、みな優れて卓越したドラマーであります。
ほかにもスタジオやライブで縁のあった林立夫さん、高橋幸宏さん、知己はないけれどもですね、最近はですね、吉田佳史さんとか玉田豊夢さんとか、素晴らしいドラマーは今も昔もたーくさん存在します。
彼ら一人ひとりの誰もがそれぞれにプレイヤーとしての個性や特殊性というものを有しておりまして、それらはもとよりも優劣の比較対象にはならないものであります。
したがってまあ、ファンの贔屓、あるいは贔屓の引き倒し、何度も申し上げております自分史の反映、そうした次元でのですね、誰が誰より優れているとか、劣っているとかというそうした無意味な評論家はもとより、私は何の興味も持っておりません。
友達の死というのは大変に悲しいし、残念な現実ですけれども、それでも我々は生きていかなければならないし、音楽を続けていかなければなりません。
青山純の数多の名演というものはしっかりと記録に残されております。
残された者は去っていった者、人々のですね、想いを受け継ぎながら音楽を続けていかなければならないと思っています。
近いうちに大瀧さんの追悼特集も企画する予定でおりますけれども、大瀧さんが亡くなってから後はですね、番組宛に早く追悼特集をやれとかですね、追悼特集は誰も知らないレアアイテムをたくさんかけろとかですね、最低半年はやれと、そういうような類の葉書が少なからず舞い込んでまいります。
ツイッター等のネットでも私そういうの興味ありませんので見ませんけれども、そういう発言があると聞きます。
そうしたファンとかマニアとかおっしゃる人々のですね、ある意味でのそうした独善性というものを大瀧さんがもっとも忌み嫌ったものでありました。
親とか兄弟の関係を他人に説明できないのに、僕と青山くん、僕と大瀧さん、そうした個人的関係はまたですね、第三者に説明できるものではないし、説明したいとも思いません。
したがって追悼特集の迅速性とか密度とかいうものに私はもとよりまったく関心はございません。
そこのところ予めご了承いただきたいと思います。
時期が来たら大瀧さんの追悼特集、やってみたいと思います。

山下達郎のサンデー・ソングブック(2014年1月26日放送)より